所長日記 20100118
つくばの仕事が一段落したので、展覧会をいくつか見て廻った。
前から見たいと思っていた、日本を代表するデザイナー深澤直人と写真家、藤井保のコラボレーションによるTHE OUTLINE 見えていない輪郭展。
深澤直人のことばより、
「アウトラインとはモノの輪郭のことである。その輪郭はそのモノとそれを取り囲む周りの境界のことでもある。そのモノを取り囲んでいるのは空気だから、そのモノの形をした空気中の穴の輪郭はそのモノの輪郭と同じである。」と始まる。
そして「空気の穴をデザインしている。」と言うのである。
何だか禅問答のような言葉で始まる。
展示されているものはプロダクトとして販売されているものなので、知っているものも多数あるが、多くの作品を一同に並べて見ると、彼の思考は一つの線でつながっていて、タイトルの意味が少し見えてくる。
それをさらに意識させるのが藤井の輪郭をぼかした写真。モノの空気感をよく表していて、展示の構成が秀麗だと思った。
少し話はそれるが、会場にプロダクトの写真にまじって、なぜか1枚の大きく伸ばされた風景写真が展示されていた。深澤はヨーロッパの企業からデザイン依頼が多いので、海外取材の時に撮ったものと思われる。ヨーロッパではよく見るような川沿いの古い街並の写真で、観光地ではないのでその場所を当てることができる人はほとんどいないと思える風景だが、僕には見た瞬間にその場所が、バーゼルのホテルクラフトから見た風景だと思った。そしてキャプションに目をやると、ホテルクラフトからの眺めだと記されていた。
実は2年前、このホテルの食堂で朝食の合間に10分ほどで同じ風景をスケッチしていた。スケッチは短い時間の中でも対象を何度も何度も繰り返し見るので、自然と風景が体にしみ込んでくる。その時の天気や温度、匂いと共に。
次に銀座の松崎画廊で、お施主さんが書の展覧会に出品しているので出掛けた。この画廊はその世界では有名な画廊らしく、書の知識のない者には足が遠いところだ。それでも勇気を出して入るとS夫人が笑顔で迎えて下さり、ほっとする。書が読めないので説明を聞きながら見ていると、ひとつの言葉が目にとまった。老子の知無為有益と書かれた軸だ。
この言葉を見ながら先ほど見た深澤直人の世界がここに表されていると思った。そして彼の創造のひみつがわかったような気分になった。
2つの展覧会が僕の中でつながっていると不思議な体験をした。
神家昭雄